DOMVS > ERRARE > 次元解析
  1. 次元解析の基本
  2. 無次元量
  3. 基本定数と自然単位系
  4. スケール変換と次元
  5. Naturalness

次元解析の基本

力学に話を限れば、物理量は「長さ」 [L]、「質量」 [M]、 および「時間」[T] の次元の組み合わせを持っている。 電磁気学では、 さらに「電荷」[Q] (あるいは他のでもいいのだけれど: SI単位系では「電流」を基本にする)の次元を持つ。 まあ、こういうことは高校の物理の教科書にも書かれている基礎的なことだが、 良く理解し、活用している人は意外に少ない。

物理で出てくる式は、次元を持った物理量の間の式である。 だからその右辺と左辺は同じ次元を持っていなければならない。 体重と身長を比べることができないのと同じことである。 余談だが、試験の採点をしているときなど、 大抵の採点者は次元を間違えているとほとんど部分点を与えることなくバツにする。 それだけ次元を間違えることは「重罪」なのである。

右辺と左辺は同じ次元を持つというこの単純な事実から、 有用な情報が得られる場合が少なくない。 簡単で良く知られた例は、振り子の等時性であろう。 振り子の腕の長さを l [L]、 重りの質量を m [M]、 重力加速度を g [LT-2] とする。 周期 [T] はこれらの関数として決まるはずだ。そこで (周期) ∝ l^xm^yg^z と仮定する。 この右辺の次元は [Lx]×[My]×[LzT-2z] = [My Lx+z T -2z ] で与えられる。これが [T] であるためには x=1/2 y=0 z=-1/2 でなければならない。すなわち、周期は sqrt(l/g) に比例し、質量 m には依存しないことがわかる。 (念のために書いておくが、この結論は微小振動に限ったものではない。 微小振動の場合、この比例係数は定数 2pi となる。 一般の場合は最大の振幅 thetamax (無次元量)の関数となる。)

難しい方程式を解かずにこのように本質的なところがわかってしまうので、 次元解析は物理学全般にわたって非常に重要である。もう少し例を見てみよう。

気体中の音速 v [LT-1] は、 気体の密度 rho [ML-3] と圧力 p [ML-1T-2] の関数である。振り子のときと同様に v propto rho^x p^y とおくと、[LT-1]=[Mx+yL-3x-y T-2y] から、x=-1/2 y=1/2 であることがわかる。すなわち、 v propto sqrt(p/rho) である。

ブラックホールの熱力学のような、 大変高度な物理も、かなりの部分が次元解析によって求まってしまう。 実際、 国際物理オリンピックの理論問題(IPh2007) ではブラックホールに関する次元解析の問題が出題されている。 高校生くらいがこういった問題をちょろっと解いてしまうのかと思うと、 今更ながらに次元解析の威力を思わざるを得ない。

国際単位系(SI)では、長さ、質量、時間、電流、熱力学温度、物質量、 および光度を独立な次元と認め、それぞれに対して基本単位 (m, kg, s, A, K, mol, cd) を定義している。 その他の単位はこれらの組み合わせによって定義される。 ここでは、次元解析について議論するので、 単位についてはこれ以上立ち入らないことにしよう。 SI単位系の詳細については、例えば 計量標準総合センター を見てもらいたい。 SI単位系自体は次元解析と直接関係はない。 今の議論にとって重要なことは、 SI単位系が認めている7つの次元のどれもが 基本的 だというわけではないことである。 何が基本的なのか、また、 それが次元解析とどう関係しているのかについては後で議論する。

無次元量

次元解析を複雑にする要因のひとつとして、 同じ次元を持つ物理量(の組み合わせ)が複数ある場合がある。 これは、例えば長さ、質量、時間、の3つの次元が関係している物理系に対して、 次元を持つ物理量が4つ以上ある場合に起る。このような場合、 次元を持つ与えられた物理量の組合わせによって無次元量を作ることができ、 その巾を次元解析からは決定できない。(この事情は流体力学(工学系?)では 「Buckingham のπ定理」という大仰な名前で呼ばれている。)

簡単で良く知られている例として、 管内の流れにおける圧力損失の問題がある。 管内径が a [L]、長さが l [L] に、密度 rho [ML-3]、 粘度(粘性係数、粘性率) mu [ML-1T-1] の流体が速度 v [LT-1] で流れるときの単位長さ当りの圧力損失(圧力の減少率) Delta p/ l [M L-2T-2] を次元解析から求めよう。まず、 Delta p/ larhomuv の関数として決まっていると仮定する。 (単位長さ当りなので l には依存しない。) 上で行なったのと同様の計算により、 Delta p/l propto (rho v^2/a)(rho v a/mu)^alpha を得る。ただし、ここで alpha は任意の実数である。 つまり次元をもつ物理量が4つあるので、 1つ無次元となる組合わせを作ることが出来たのである。 そのためにその無次元量の巾 alpha は次元解析からは決まらない。結局、次元解析から分かることは、 Delta p/l = (rho v^2/a)f(rho v a/mu) ということである。ただし、f(x)x の何かある関数である。

上の例題から学ぶべき事がいくつかある。まず、 無次元量についての依存性はわからなくても、 rho v^2/a に比例することは確かであるということだ。これは本来、 次元解析に期待されている役割である。次に、ここで得られた無次元量 rho v a/mu が、 Reynolds 数 Re という、 粘性を持った流れを特徴づける量になっているということである。 我々は流体の方程式(Navier-Stokes 方程式)を議論することなしに、 粘性を持つ流れを特徴づける(系のサイズと無関係な)パラメタを見いだしたと言える。

簡単な例として、 減衰振動を考えよう。運動方程式 ddot{x} +2gamma dot{x} + omega^2 x=0 には2つの [T-1] の次元を持つ量 gammaomega が含まれている。それゆえ、これらから作られる無次元量 gamma/omega が、系のサイズに無関係な、振動を特徴づけるパラメタになっている。 良く知られているように、この運動方程式の解は、 gamma/omega の大小によって、全く異なった振る舞いをする。

もうひとつの例として Kepler の第三法則を導いてみよう。 太陽の質量を M_odot、 惑星の質量を m とする。 惑星の描く楕円軌道の長半径を a とすると、 惑星の公転周期 T は、万有引力定数 G、および M_odotma の関数として定まると期待される。既に述べたような次元解析の方法によって、 T=sqrt{R^3/(GM_odot)}f(m/M_odot) を得る。関数 f(x) は次元解析からは定まらないが、実際には m/M_odot << 1 の場合に定数に近づく。 この例では、無次元量は補正を与える小さなパラメタの役割をしている。

基本定数と自然単位系

系のサイズを特徴づける量から無次元量がつくられない場合でも、 次元解析を複雑にする要素がある。 それは次元を持った、系のサイズとは無関係な 特徴的な量(スケール) がある場合である。そのような量は、 物理定数として現れる。 例えば、相対性理論を考えると、 そこには光速度 c という相対論的な効果の大きさを決める次元を持った量が現れる。 そしてそのために無次元量の数が増えるのである。 そういった次元を持った物理定数は、考えている問題によって様々に現れる (例えば電子の質量、陽子の質量、太陽と地球との距離など) が、 光速度のような普遍的な性質を持った定数は、実はそれほど多くない。他には、 量子効果の大きさを与える Planck 定数 hbar および万有引力定数 G がある。 上にあるブラックホールの熱力学の問題では、 これらに加えて熱現象に関係した Boltzmann 定数 k_B も重要な役割をはたしている。

温度というのは粒子の平均的な運動エネルギーと関係している。 この関係を与える定数が Boltzmann 定数である。 その意味で温度は独立な「次元」ではないし、 Boltzmann 定数はちょうど仕事の熱当量のような変換定数にすぎない。 物質量というのは、結局 Avogadro 数個の物質を単位にしているにすぎない。 光度は人間の視覚と関係する量で、純粋に物質世界を議論するのには、 重要で独立な次元と考えることはできない。こう考えていくと、 SI単位系が認めた7つの次元の中にも、 より基本的なものと従属的なものがあることがわかる。ここで議論している 基本定数 というのは、基本的な次元を結び付けてしまうようなものである。

このような基本的な定数の存在は、非常に深い意味を持っている。(そして、 考える人によって、その意味は異なっているようだ。 現代の素粒子物理学者3人による興味深い議論が この論文 にある。) 以下では光速度を例にとって、次元解析の立場からその重要性を説明したい。 Planck 定数に対しても、ほとんどパラレルの議論をすることができる。

まず第一に、光速度は速度というものの絶対的な大きさの基準を与えている。 非相対論的な世界(光速度無限大)では、速度の大きさはすべて相対的であった。 しかし、相対論的な世界では、速度 v が「速い」か否かは光速度 c との比 beta = v/c によって言うことができる。(そしてもちろん、 この絶対的な尺度で言って速度が速いのであれば、 相対論的な効果を考慮しなくてはならない。)

第二に、光速度が次元を持つため、 これを考慮することによって無次元数が余計に現れることになる。 この無次元数は上述の beta = v/c に他ならない。そして、 (相対論的)次元解析は、非相対論的世界の次元解析の結果に、この beta の何かある関数がかかることを結論する。 beta はその物理系を(どれほど相対論的か)特徴づける無次元パラメタである。 多くの場合、この関数は beta を小さなパラメタとする相対論的補正を与える。

第三に、光速度は長さと時間とを結び付け、 (少なくとも次元解析の意味で)長さと時間とを同一視させてしまう。

相対論的効果と量子論的効果の両方が重要である素粒子物理学では、 chbar も常に現れてくる。そのため、適当な積を作ると、 どのような次元を持った物理量も、ひとつの次元で表すことができる。 このようにすることを自然単位系をとる、 と通常言う。素粒子物理学で通常良く用いられる次元はエネルギーで、 GeV (ギガ電子ボルト)という単位である。1GeV = 1.602...× 10-10J(ジュール)。この単位を用いて、エネルギーばかりでなく、 運動量、質量なども表す。(量子)重力も含めた理論を考えるとすると、 万有引力定数 G (あるいは同じことだが 「Planck 質量」)もまた現れるだろう。 そうすると、あらゆる物理量が絶対的な尺度によって測られ、 無次元数によって表されることになるだろう。 そのような理論では次元解析という概念がもはや意味を持たなくなるので、 以下では考えないことにする。

スケール変換と次元

次元解析という考えは、スケール変換とか、 相似とか言われる概念に深く関係している。

スケール変換とは、文字通り、物差しを取り替えることである。 cm 目盛の定規から inch 目盛の定規に取り替えると、 10 (cm) が 10/2.54 = 3.937 (inch) と変わる。 それに伴って、あらゆる長さに関わる量が 1/2.54 倍になる。例えば 速度も 10 (cm/s) が 3.937 (inch/s) となる。 1/2.54 のどのような巾で物理量が変換されるのかは、 まさしく次元解析によって決まる。 むしろ、次元解析とは 物理量がスケール変換の下でどう変換するのかであると言うことができる。

力の性質によっては、特定のスケール変換の下での運動が相似となることがある。 ポテンシャルが位置座標の同次関数で r -> alpha r の下で U(r')=alpha^d U(r) のようになるとき、時間についても t -> t'=beta t と変換すると、運動エネルギーは 1/2 m (dr'/dt')^2
= (alpha/beta)^2 1/2 m (dr/dt)^2 と変換される。それゆえ、 beta=alpha^{1-d/2} と選ぶと、運動が不変になることが分かる。このことから、 運動の長さのスケールと時間スケールの間の相似関係が導かれる。 良く知られた例は(太陽の質量に比べて惑星の質量を小さいと近似したときの) Kepler の第三法則である。このとき d=-1 で、 時間スケール(周期)は長さスケール(軌道長半径)の 3/2乗でスケールする。 (注意:上の議論はラグランジアンに基づいたものだが、 運動方程式に基づいても同様の議論が可能である。 また、質量スケールに対しては変換しなかったが、 もちろんスケール変換を同時に行なうことができる。)

相似性の議論では、 ポテンシャル(あるいは力)の性質をあらわに使っている点に注意。 その意味で次元解析より詳しい情報を用いているように見える。 ではなぜ次元解析だけの以前の議論で、 Kepler の第三法則に対して同じ結論を得ることができたのだろうか。 実は、 万有引力定数という理論の結合定数の次元から、 同等の情報が引き出されていたことがわかる。

相似関係があるということは、 特定の運動や系の特徴的な大きさには無関係な関係があるということを意味する。 それは、(特定の運動や系ではなく) 「理論」を特徴づける無次元パラメタの存在を示唆している。 (この論理を逆にたどることもできるだろう。) このことをあらわに示すために、次元を持った物理量を、 何か基準となるもの(特徴的なスケール)との比で表す(無次元化する)とよい。 三たび Kepler の第三法則を考えよう。基準となる長さを L_0、基準となる質量を M_0、基準となる時間を T_0 とする。これらを用いて無次元量を によって定義すると、 運動方程式は と書かれる。ここで kappa は無次元の結合定数で、 kappa= で与えられる。 この無次元化された運動方程式が、 上の「特定の運動や系の特徴的な大きさには無関係な関係」に他ならない。

Navier-Stokes 方程式 NS equation において、同様の無次元化を行なうことを考えよう。特徴的長さスケールを L 、 特徴的な時間スケールの代りに特徴的な速度スケール U、 特徴的な質量スケールの代りに密度 rho を用いて のように無次元化すると、 dimensionless NS equation と書かれる。ただし、 Re= は Reynolds 数である。

細かいことを言うと、Kepler 問題の kappa と、 Reynolds 数 Re とは多少性質が異なる。 Kepler 問題では kappa の大きさ自体は問題にならない。 なぜならば、 もともとの方程式に系(惑星)を特徴づける量が現れないし、 実際の結合定数はむしろ であるからだ。そしてこの結合定数 は系(惑星)に依らない純粋な数定数になる。 一方、Reynolds 数は系に依存し、その大小は解の性質を大きく変えてしまう。 Reynolds 数が解の性質を特徴づけるのは Navier-Stokes 方程式には粘性力の項の他に、圧力勾配に関係する項があることによる。 (減衰振動の場合の減衰力と復元力の関係を思いだそう。) 流体力学の教科書に、 「Reynolds 数は慣性力(?) と粘性力との比である」と説明されているが、 むしろ圧力勾配による力と粘性力との比であると理解すべきだろう。

Naturalness

次元解析によって分かるのは、次元を持った物理量への依存関係であって、 無次元の比例定数がいくつであるかまでは分からない。しかし、 その比例定数が非常に大きい数であったり、 非常に小さい数であったりすることは通常想定しない。 無次元の定数が1のオーダーであると考えるのは「自然」である。 この考え方を naturalness という。 Naturalness に基づくと、次元解析は依存関係のみならず、 その物理量の大きさも評価できる。 初めに考えた振り子の周期の例で言えば、 比例定数は 1 のオーダーだと期待することが naturalness である。 実際の微小振動の場合の比例定数は 2pi であった。まあ、この程度の精度の話である。

Natural でない場合を fine-tuning 「微調整」されているという。fine-tuning のある系は特殊な系である。どのように特殊な系かは場合によるが、 重要な場合として、 系の対称性によって小ささが保証されている (つまり、実際は fine-tuning ではない) 場合と、 相転移などの臨界現象がある。

もし系の対称性が厳密であるならば、ある物理量が厳密にゼロである、 と言える場合がある。 問題となるのは、この対称性が少し破れている場合である。 このとき、その物理量は厳密にゼロではないが、 対称性の破れの小ささに比例して小さい。 破れが小さければ、いくら小さくても「不自然」ではない。

多少分かりにくい例ではあるが、古典力学の範囲の例として、 中心力による質点の運動の場合を考えよう。 中心力が万有引力のように厳密に距離の2乗に反比例する場合、 軌道が縮退する (つまり、 rphi の一価関数) ことが知られている。 このことは、Laplace-Runge-Lenz ベクトル という保存量の存在と関係している。 もし、中心力が厳密に距離の2乗に反比例しなければ、 軌道は縮退せず、一周したときに閉じない。 そのずれは惑星の運動では近日点移動として知られ、 一周した時の近日点のずれの角度(無次元量)で与えられる。 その大きさは逆2乗則からのずれによって決まり、 ずれが小さい時にはその角度はずれの大きさに比例して小さい。

実際に少し計算してみよう。質量 m の粒子がポテンシャル V(r)=-GMm/r-h/r^2 の中で運動するとする。角運動量 l=mr^2\dot{\varphi} が定数であることに注意すると、エネルギー保存則より E=(m/2)(\dot{r}^2+l^2/(mr)^2)-GMm/r-h/r^2 を得る。phi での微分を prime (') で表すことにしよう。 r'=\dot{r}/\dot{\varphi}=(mr^2/l)\dot{r} である。エネルギー保存則を u-1/ru'=-r'/r^2=-(m/l)\dot{r} を用いて表すと、 (u')^2+u^2-(2GMm^2/l^2)u
-(2hm/l^2)u^2=2Em/l^2 を得る。これを phi で微分すると、 u'' +u =A+\epsilon u という式を得る。ただし、 A=GMm^2/l^2 および \epsilon=2hm/l^2 (無次元) である。 \epsilon=0 ならば簡単に積分され、よく知っている周期 2pi の(閉じた)楕円軌道を与える。 \epsilon が小さいとき、周期は 2pi からずれ、そのずれは \epsilon に比例する。今の場合には、(任意の \epsilon に対して)やはり簡単に積分でき、周期は 2\pi(1+\epsilon/2) であることが示される。